第6話 いつまで休むの?

 「抑うつ状態の為、3カ月の自宅療養と通院加療を要する」
 歯科衛生士桜庭友香から診断書が届いたのは2カ月前のことだ。桜庭の業務をカバーするために他のスタッフはこの2カ月、毎日身を粉にして働いている。3カ月先の予約までいっぱいだった桜庭担当の患者はすべて他の2人の歯科衛生士へ回されたため、2人は昼休みもろくに取れず、疲労はピークに達していた。
 この激務状態が続けば、過労による他のスタッフの心身への影響が心配だ。
 あと1カ月で復帰できないのであれば、桜庭には辞めて休養に専念してもらいたい。そして緊急に新しい人を雇わなければ。春山は桜庭に電話をかけてその旨を伝えた。終始無言だった桜庭がついに口を開いた。
 「私の休職期間はいつまでだったんでしょうか? 主治医からあと3カ月は療養した方が良いと言われています。期間もはっきり決まっていないのに、いきなり復帰出来ないなら退職だなんて……」。受話器からはすすり泣きの声が聞こえ始めたので春山は絶句した。経営者である自分の発言が引き金で自殺でもされたらマスコミ沙汰となり歯科医院の存続にかかわる。なす術もないまま2週間が経過した頃、2回目の診断書が届いた。更に3カ月療養を要するとするものだった。
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 法律に休職期間に関する規定がないことも一因だが、具体的な定めがないばかりに痛手を被る経営者が増加中だ。大企業でさえ、うつ病社員への対応が完璧とは言い難い。うつ病の発症例は増加の一途を辿っており、事業規模に関係なく、いつそのような状況が訪れても不思議ではない以上、早急に対策を講じる必要がある。
 労働者は欠勤により無給となっても健康保険から出る傷病手当金が最長1年6カ月ある。一方、雇い主はその社員が在籍する限り、労務の提供がなくても折半分の保険料を払い続ける義務を負っているので、休職社員を抱えたまま新たに人を雇う余裕もないことが多い。酷なようだが、休職期間経過後、復帰出来ない場合には自然退職と決めておくことも後々のトラブル回避につながる。

日本歯科新聞1642号(2010/3/30)