第8話 代休と振替休日

 春山歯科医院でチーフ歯科衛生士を務める杉田朋子は、帰宅の途に着きながらも沸々と湧いてくる怒りを抑えることが出来ないでいた。
 院長春山が今日の昼過ぎに突然杉田に言った。「悪いが明日土曜日のオペ、杉田君手伝ってくれ。赤木の奴、急に休むと言ってきた」。赤木はバイト歯科衛生士だが、顔は可愛いし要領もいい。甘えた調子で電話が入ったことは想像にたやすかった。一方で院長は1回も断ったことのない杉田に安心しきっているのか何とも気軽に頼んでくる。責任感の強い杉田はこの依頼を断れず、何度自分の予定をキャンセルしたか分からない。
 代わりの休みを与えるから問題ないと思っている様子にも理不尽さを感じてならない。
 その与え方にも腹が立つのだ。「杉田君、明日は予約も少ないから休んでもらっていいぞ」と前日に言ってくる。
 杉田は今週、診療後に新人歯科衛生士にスケーリング研修を行ったり、急患の対応に付きあったりで残業続きだった。それでも週末に予定している日帰り温泉旅行があるから頑張れていたというのに。
 杉田朋子が給料の間違いを指摘して春山に抗議した後、退職届を叩きつけたのはそれから2週間後のことだ。春山自身は残業代をきっちり払っているつもりだったので狐に抓まれたようだった。
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 代休と振替休日の違いをご存じだろうか。どちらも就業規則等に規定しておくことが必要で前者は事後に振り替えるが、後者は事前に振り替えることを言う。しかし決定的な違いは、前者は割増賃金の支払い義務が生じるということだ。後者はあらかじめ振り替えるべき日を特定しているので、休日が最初から労働日だったことになり休日労働させたことにならない。春山医院のケースはまさに代休に該当する。よって時給換算で3割5分増の賃金支払い義務が生じる可能性が大であるとともに、その週に40時間を超えて勤務していれば通常の2割5分増の残業代支払いも生じている。つまり5割増になることもあることを忘れてはならない。

日本歯科新聞1650号(2010/6/1)