第31話 有給休暇の買い取り

春山歯科医院の歯科衛生士・金子あずさの退職願は、院長春山にとって大打撃だった。金子の人柄が多くの患者をファンにし、金子の予防枠は毎日ぎっしりだ。
 しかし、春山の頭を悩ませているのはそのことではなかった。金子は9年目、勤務態度もまじめで、これまで休んだのは本人いわく、祖父の忌引で2日だけとのこと。正直なところ、春山はこれまで必要に迫られたこともなく、有給休暇の残日数など管理していなかったので、はっきりしたことは分からないのだが、その金子からの退職に際しての要求が納得できないでいる。その要求とはこうだ。
 「有給休暇は40日余っているので退職日の40日前から有給休暇を消化させてもらいたい。それができないのであれば買い取りしてもらいたい」
 果たして、この要求を医院としてのまなければならないのであろうか。
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 有給休暇(以下「有休」と言う)に関しては従業員の関心も高く、その法律にはやたらと詳しいという従業員が多い。有休の買い取りは法的に義務付けられておらず、結果的に消化しきれなかった分を買い取ることが違法でないというレベルの話なのだ。よって先に買い取ることは許されない。
 勤続年数が一定以上になると有休は最高で1年に20日発生し、2年で時効消滅する。つまり全く消化しなければ翌年新たに20日発生し、最大で40日の持ち分を有する。5日は従業員が自由に使える有休として残さなければならないので最高で15日は一斉消化としても良いことになる。
 一番の問題はそれすらも「極力取らせたくない」という事業主が大半であることだ。しかし、それは得策とは言えない。某歯科医院では3カ月前に予定を申告させて、各自年間5日を自由に有休取得できる仕組みを作っている。取らせないという概念を取っ払い、一部自由に取らせて、ほかは一斉消化する考え方だ。
 夏季冬季休暇のうち数日を職場で一斉消化にすること以外にも、合法的に有休を減らしていく方法はある。その際、就業規則への記載は必須であるのでご注意を。