第26話 有給休暇と皆勤手当

 院長春山は、最近めっきり疲れていた。
 (どうしてこうも次から次へと問題が押し寄せてくるのだ)
 開業当初は、ここまでスタッフのことで悩みを抱えることになるとは思いも寄らなかった。歯科衛生士・弓沢佳織の言い分はこうだ。
 「以前勤めていた歯科医院では、有給休暇を取得した月でも皆勤手当はちゃんと付いていました。風邪などで欠勤した場合でも、たくさん余っている有給休暇に振り替えを認めてくれていたので、皆勤手当がカットされる月などありませんでした。春山歯科医院の有休を取った月に皆勤が出ないことに納得できません。それってつまり、有給休暇取得をしたことによる不利益取り扱いの禁止に違反するんじゃないですか?」
 春山が「1カ月の勤務に1日たりとも穴を空けなかった褒美が皆勤手当なんだから、休みを取った月には出なくて当然だろう?」と言ったところ、不満をあらわにした面持ちで弓沢はこう言った。
 「ネットではそう出ていました。私もっと詳しく調べてみます」
       ◆
 労基法136条は、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしないようにしなければならないと定めている。過去の最高裁判例もあり、この法律だけで使用者が有休取得社員に対する皆勤手当カットが不利益な取り扱いに該当するわけではない、としている。スタッフの有休取得によりカットされる皆勤手当の額が給与に占める割合として妥当な額なのか、つまり給与全体に占める割合として大きすぎる場合には、カットによってスタッフが受ける経済的影響も大きい。それは事実上、有給取得を抑制するものと判断されるわけだ。
 明確な数字を定めた法律は存在しないということは、「世間一般の皆勤手当の金額であれば皆勤手当カットは不利益取り扱いとは判断されない」ということでもある。スタッフにしてみれば、1万円の皆勤手当でもカットされるのは痛手だろう。そこを十分考慮した上で、就業規則に最初からしっかり明記しておくことが望ましい。

日本歯科新聞1724号(2011/12/20)