第24話 残業代の正しい計算法

 「適切な労務管理が優秀な従業員の定着につながる」
 これが春山歯科医院の院長春山がこれまでの医院経営で培った教訓だった。2カ月前の申請により、有給休暇も皆交代で取得できる仕組みだ。もちろん残業代も1分単位で支払っている。誰からも後ろ指を指されることのない経営と労務管理には自信があった。それが1通の内容証明郵便で根底から覆ることになろうとは。
 差出人は先月、「ほかにやりたいことが見つかった」と言って退職した歯科衛生士・北山翔子からのものだった。円満退職だと信じて疑わなかった春山はショックを隠せないでいる。送別会でも終始にこやかで、最後には涙さえ流していたではないか。内容はこういうものだった。
 「先月退職するまでの2年間の残業代が間違っているので、その差額を11月30日までに下記口座にお振り込みくださいます様、ここに記します」
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賞与や残業代を安くするために基本給を低く設定し、資格給や能力手当等で給与を一定水準まで持っていく方法を取っている事業所が多いが、ここで大きな過ちを犯している事業所を多数見かける。その大多数は残業代の計算方法についての誤った認識だ。残業代の計算基礎となるのは基本給だけでなく、諸手当も足した金額だということはご存じだろうか。残業代の算定基礎から除外できる賃金は限定的に次の七つだけである。
(1)家族手当
(2)通勤手当
(3)別居手当
(4)子女教育手当
(5)住宅手当
(6)臨時に支払われた賃金(退職金など)
(7)賞与(1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金)
つまり、これらの除外賃金以外はすべて算入しなければ、従業員から後日、その差額を請求されるリスクがあると言える。
 残業代請求の時期が当然のごとく「退職後」であることが多いこと。過去2年分はさかのぼって請求できること。ケースによっては在職中の従業員全員分の差額を支払う必要が出てくること。以上のことからも、予期せぬ残業代請求で後々手を煩わせられるよりは、法定通り支払っておくことが望ましい。

日本歯科新聞1716号(2011/10/18)