第23話 昇給額の決め方

 カッターで切り取られた春山歯科医院の求人広告を持って、歯科衛生士の田丸はるかと佐竹有紀が昇給の件で院長室を訪れたのは昨日のことだ。いつの求人広告かと思うほど紙はボロボロだったが、確かにそこには「昇給5千円/年」と書いてある。今月で3年目を迎えた二人の衛生士の昇給額は基本給で3千円だった。
 これでも散々迷った挙げ句、100歩譲ってこの額にしたつもりだ。春山が先月胆石の手術で入院した際、代診ドクターを入れたものの、売り上げの落ち込みは避けられなかった。50歳を目前にして春山は体力の衰えを感じている。
 このまま5千円ずつアップし続けなければならないのか。医院の存続に関わる事態に陥ってもなのか。今は大企業といえども昇給がないところもあると聞く。それならばと思い切って決断したのが3千円だった。
 二人の言い分は「入社時と要件を変えるのは不利益変更ではないか」。果たして打つ手はないのだろうか。
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 春山歯科医院の開業当初作成した就業規則には「昇給は年5千円」と記されているが、結論から言えば変更は可能である。ただし1人ずつの承認を取るなど措置が必要となってくる。
 しかし、その時間と労力を割いてでも変更を強く勧めたい。医院の風紀を乱すようなスタッフや院長の指示に従わないスタッフにも一様に昇給を行わなければならなくなることは避けたいではないか。
 また仮に何十年と勤め上げるスタッフが出てきた場合に、上限は決めておく方が良い。スタッフの生活レベルの向上も考慮し、入社後一定期間は毎年昇給があっても良いだろう。しかしその後は、しっかり評価を行い、「成長しているのか。止まっているのか。改善点は何か」といった着眼点を持って昇給を行うことで、惰性だけでやる気もないスタッフに高額を支払い続けるというリスクを回避できる。
 なかなか評価制度の導入まではいかない、ということであれば、せめて昇給幅を決めるにとどめておくことだ。何度も言うが一律○○円と決めてしまうことは、得策とは言えない。

日本歯科新聞1712号(2011/9/20)