第22話 残業手当と役職手当

 退職した従業員2人から未払い残業代を請求されて痛手を負ったことをきっかけに春山歯科医院では15分単位で残業代を払っている。当然と言われればそれまでだが、同業の歯科医院では、まだ痛い目に遭っていないことをいいことに、なあなあにしているところも多い。
 最近、春山を悩ませているのは8年目の歯科衛生士・篠塚真弓だ。3カ月前に1人暮らしを始めたのと同時に、残業代を稼ごうとする行動がやたら目につく。酒の席で同業の歯科医師に思わず愚痴を漏らしたところ、こう言われた。
 「うちのように、一定の勤続年数を超えた衛生士は役付きにしたらどうですか。管理職は残業代がつかないから、いくらか役職手当でも支払っておけば問題ないですよ」
 春山の目の前がパーッと明るくなったことは言うまでもない。
 早速、翌月から篠塚と勤続6年目の歯科衛生士・金田をそれぞれ主任衛生士、副主任衛生士とし、おのおの月3万円と2万円の役職手当を付与することで管理監督者にしたのだが、果たしてこれで良いのだろうか。
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 役職者の残業代について誤った認識を持った事業主がたくさんいる事実は否めない。
 まず役付きになった歯科衛生士が管理監督者と認められるためには、その職務内容、権限および責任、その待遇からして十分なものでなければならない。判例からみても、役職手当も数万円単位という微々たる金額では、労基法の労働時間規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては認められない。権限にしても、後輩衛生士の育成を任されている程度では権限に値せず、常勤歯科衛生士の採用権限を持つなど経営サイドに立つ者として明らかな権限が付与されていなければ、これも認められない。
 さらに勤務形態に関しても、ほかの従業員と何ら変わりなく始業終業の時間に拘束されており、形式的にも実質的にも全く労働時間に裁量があるとは言い難いので、管理監督者と認められる要素はゼロと言える。結局後からまとめて請求されるという危険性がかなり高いので注意が必要だ。

日本歯科新聞1708号(2011/8/23)