第21話 就業規則は先手必勝

 「○月○日 受付のババア、存在が邪魔!ムカつく」
 「○月○日 自分の医院の看板汚してどうする?ブスは引っ込め」
 連日の春山歯科医院のネットへの書き込みに、院長夫人・春山理子のマウスを握る手は、怒りで震えが止まらない。受付に終日座っているのは紛れもなくこの自分。院長春山は「単なるやっかみだろう? 気にするな」と深刻に受け止めていない風だ。
 しかし、夫人の中で、犯人のおおよその見当は付いていた。歯科衛生士・岡小夜子。夫が勤務医時代から一緒に働いているキャリア15年の敏腕歯科衛生士だ。
 この書き込みが始まる少し前に、夫人と岡は口論をしていた。本来、皆でする診療後の掃除を全くやらない岡を見かねた夫人が院内のゴミ集めを命じたところ、「私の業務に掃除やゴミ集め等の仕事があるとは聞いていません」と言う。夫人がカッとなり、「院内を清潔にきれいに保つのも歯科衛生士としての役目でしょう。患者さんにだけ良い顔をしていればいいと思っているんですか」と言うと、「はぁっ?」とあからさまに小ばかにしたような表情をして、その場から消えた。
 夫人と岡は険悪なムードになっていき、今では夫人が何を言っても無視だ。書き込みは口論の翌日から始まった。証拠もないので、岡を注意することもできない。口汚い書き込みはエスカレートしていく一方だった。
       ◆
 嫌がらせの枠を出ない、この程度のものでは警察も動いてくれない。しかし、ここで問題なのはそれではない。労基法15条では、一定の項目につき雇用条件の明示を義務付けている。「契約期間、残業の有無…」に並び「従事する業務」も書面による明示が必要な項目だ。先述の例で言えば、「衛生士業務に加えて、それに付随する一切の業務」と一文加えておくこともできる。
 ただ、これだけでは不十分で、それらを守れなかったスタッフの人事面での対策を就業規則にうたっておくことを忘れてはいけない。トラブルになりそうな問題については、平和なうちから先手を打っておくことが重要だ。

日本歯科新聞1704号(2011/7/19)