第18話 身元保証は大丈夫?

 慌ただしく走り回るナースサンダルの足音。基本セットが床に落下し、散らばる金属音。準備時間が5分しかなく慌ただしくスタートした今日の春山歯科医院は殺気立っていた。連絡なしに出勤しない歯科衛生士・茂山千春のPMTC予約患者は時間通りにちゃんとやって来る。今朝から何回電話しても茂山は携帯に出なかった。古い履歴書を引っ張り出してきてみたものの、連絡先は携帯電話の番号だけだった。
 院長夫人春山理子も心配している。
 「何かの事件に巻き込まれたんじゃないかしら?」
 しかし、2人の一番の心配の種は、茂山が医院の通用口用カードキーを持っていることだっだ。通常は10年以上勤務するチーフ歯科衛生士の中村がそれを保持するのだが、子宮筋腫の手術をする間の2週間だけということで、茂山がキーを預かって、毎朝一番に出勤し、カギを開けていた。今日がその14日目だった。
 春山は3年も勤務している彼女のことを何一つ知らないことに、今更ながら気が付いた。自分のことはあまり語らない性格もあり、実家は山形ということしか聞いていない。
 連絡が付かないまま過ぎた3日目の夕方、春山は職歴に記された二つの前職場に電話をかけてみようとネットで調べたところ、どれも実在しないことが分かった。その後の調べで自宅住所も偽物だということが分かったのだ。
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 スタッフが突然出勤しなくなるケース。残念ながら少ないとは言えない。こういう場合、いつまで待っていればよいのか。社会保険の喪失はいつの時点で行うのか。判断に迷うところではないだろうか。こういうケースを想定して、入社時に身元保証人を決めて提出してもらうことも、リスク回避に有効な手段の一つだ。
 「第○条 身元保証人は2名とし、原則として、2名のうち1名は親権者又は親族人とする。2 身元保証の期間は5年間とし、医院が特に必要と認めた場合、その身元保証の期間の更新を求めることがある。」
 これはスタッフに対してけん制の役割も果たすことになる。

日本歯科新聞1692号(2011/4/19)