第14話 スタッフのモチベーション

 院長春山が診療の合間をぬって急いでトイレに立った時、受付の門山アキが小声で電話中だった。「はい?親知らずが腫れてお痛みがひどいんですかぁ。でもうちは完全予約制で今日はもう先生の予約はいっぱいなんで、無理です。明日の16時でしたらお取りできますが」。どうやら電話は途中で切れた様子。春山は用を済ますどころではなく受付に飛んでいき、門山に詰め寄った。
 「予約がいっぱいでも、急患は断らずにまずは自分に相談するようにとあれだけ言っているのに。痛いと言っている患者に向かって明日の16時はないだろう。全く」
 門山は悪びれた様子もない。なぜなら、院長の言う通りにしていたら、帰りが遅くなるのは従業員である自分たちなので、急患は断るという風潮がスタッフの間にすっかり出来上がってしまっていたのだ。
 翌日、その患者が来ることはなかったことは言うまでもない。
 院長春山の憤りは治まらなかった。困ったものだ。スタッフのモチベーションがあそこまで低いとは。スタッフに経営者目線で歯科業界の厳しい現状を分からせようとするのは無理なのだろうか。いや、そんな悠長なことを言っている場合ではない。
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 日々の診療に追われ、スタッフのモチベーションうんぬんどころではないという歯科医院が多いのが現実だ。しかし先述のように、電話応対するスタッフの段階で、知らぬ間に患者を他医院に送りこんでいるケースは多い。恐ろしいことに、その患者によるネットへの書き込み等で医院の評判をさらに落としていることもある。
 スタッフに少しでも経営側と同じ意識を持ってもらうことが重要なのだが、どうすればよいのだろうか。賞与や昇給の業績連動制、評価制度の導入による繰り返しのフィードバック等、経営に自分たちも参加している意識を持ってもらうことは必須だ。
 現代の労務管理や社員教育はスタッフ側の権利意識の高まりによって一筋縄ではいかない。増収増益が自分たちのメリットとしてもらう額にも反映する明確な規定を設けていくことも、早期に考える必要がある。

日本歯科新聞1674号(2010/12/7)