第13話 介護休業

 歯科衛生士の花田明日香が、父の看病のために介護休暇を取りたいと申し出てきた時、春山はキツネにつままれたような状態に陥った。
 介護休暇は全くなじみがないばかりか、自院の就労規則作りの参考にするためにダウンロードした資料の内容は、言い回しも難解で読む気もうせるものだった。加えて20代スタッフが多い春山歯科医院に介護休業は当分必要なさそうに思えたので放置していたのだ。早速規則を見てみると「93日」という数字が目に飛び込んできた。こんなに休まれては一大事とばかりに春山は舌打ちした。現在、育児休業中のスタッフを一人抱えており、シフトはキツキツなのだ。
 育児休業と異なり、介護は代わりがきくではないか。たしか花田は実家暮らしで3人姉妹と聞いている。ひとり親で一人っ子なら致し方ないものの、それだけ家族が多いなら人手は足りているはず。果たして、院長春山は花田からの申し出を断れるのだろうか。
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 介護休業の対象範囲は、要介護状態にある父母、配偶者、子、配偶者の父母、同居し扶養している祖父母、孫、兄弟姉妹だ。要介護状態とは2週間以上にわたり、常時介護を必要とする状態を指す。雇用保険より従業員に休業開始時賃金の40%の給付があるので、事業主に給与支払い義務はない。しかし休業期間中も社会保険料の納付義務は免除されない。
 最も気になる介護休業期間であるが、対象家族一人につき、介護休業短時間勤務と合わせて通算93日。もちろん取り決めで入社1年未満の社員や、雇用期間が1年未満の契約社員等は対象外とすることも可能だ。しかし一番のポイントは、人手が足りようと足りまいと、本人からの申し出があれば断ることはできないことだ。
 介護の負担は想像を絶するものであると同時に、少子化で子供の数も少ないことから、今後、優秀な人材が親の介護を理由に失われていくことが社会問題として浮上しつつある。それを補うために従業員の介護支援を行う事業所に対しての助成金もあるが、慢性的人手不足の歯科医院にとって取り組みはまだ先のことになりそうだ。

日本歯科新聞1670号(2010/11/2)