第12話 スタッフの育児休暇 (下)

 渡辺恭子が産前産後休暇と子供が1歳の誕生日を迎えるまでの育児休業を取ることが決まったのは、1カ月前のことだ。それからというもの、何となく女性スタッフが以前よりイキイキ仕事をしているように感じる。
 そんなある日のこと。またもや院長春山を悩ます問題が浮上してきたのだ。その原因は2カ月前に採用した歯科助手・児玉さゆりだった。
 児玉は未婚だが、今回の妊娠を機に入籍して子供を産むつもりであると報告してきた。そして、自分も渡辺のように育児休業を取って、長く春山歯科医院に勤務していきたいと言う。
 春山はかぶりを振った。
 「ちょっと待ってくれ。君はまだ2カ月前にうちに入ったばかりだ。渡辺君に育児休業を取らせたのは、5年も真面目に勤務してくれているからであって、誰でも取れるかといったら、決してそういうわけじゃない。誰が考えたって2カ月前に入った君と5年間勤務した渡辺君が同じように育児休暇を取れるわけないだろう」
 児玉は少し考え込んだが、「院長、育児休業って法律で定められた権利じゃないんですか。一部の社員に許して、一部の社員には取らせないというのは解せないです。明確な基準でもあれば話は別ですが……。もういいです。来週にでも父の知り合いの専門家に相談してみますから」と言い残すとスタスタと院長室を後にしたのだった。
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 1人目の育児休暇取得が決まった際に、真っ先にすべきは社内規程(就業規則)の作成・見直しをして制限をかけることだった。妙齢の女性スタッフが複数いるなら、これは優先的にすべきだ。雇入れ後1年未満の者、1年以内に退職することが明らかな者、1週間の所定労働日数が2日以下の者等は、労使協定(従業員代表者との書面による協定)で対象外とすることができるのだ。
 このような手続きを踏まなければ、たとえ入社2カ月の者でも拒否はできない。更に「中小企業子育て支援助成金」など助成金支給申請要件も育児休業の規程を要求していることからも、早めの対策を講じる必要がある。

日本歯科新聞1666号(2010/10/5)